養老天命反転AR:原田郁×荒川修作+マドリン・ギンズの世界
「養老アート・ピクニック」2018年11月3日、4日@養老公園、岐阜
著:伊村靖子(芸術学・情報科学芸術大学院大学(IAMAS)講師)
《養老天命反転AR》は、荒川修作+マドリン・ギンズの《養老天命反転地》(1996)で使うための鑑賞ツールである【図1】。AR(拡張現実)により、実現しなかったプランも含めて、CGやドローイングとして残されたアーティストたちの構想を現実空間に重ねて見ることにより、より深く作品を知り、新たな発見をすることがねらいである。今回は、《養老天命反転地》の長径130m、短径100mの楕円形・すり鉢状の空間に、1)模型、2)標識、3)植栽と名づけた3DCGのレイヤーを重ね、荒川+ギンズの構想を見せるアプリケーションを制作した。その初のお披露目の機会となったのが、「養老アート・ピクニック」である。
【図1】鑑賞ツールで鑑賞する子供たち
このアプリケーションでは、ARシステムを赤松正行と小林友樹が開発し、3Dモデリングを原田郁が担当。荒川+ギンズの構想を、伊村靖子と松井茂が分析して、共同研究を行っている。残された資料から3DCGのモデルを起こすためには再解釈・再創造の必要があるのだが、原田の作品世界は、荒川+ギンズの構想を大胆に実現する手がかりになっているのではないだろうか。
原田は、自身の作品において3DCGによる仮想の世界をつくり、その世界のある地点から見える風景を絵画として描く作品を展開している。2015年のアートフロントギャラリーでの個展では、二つの世界の関係が反転して、現実のギャラリー空間が仮想空間の中に再現されたこともある。今年7月の個展「NEW DIMENTIONS」では、一点透視法による錯視効果を最大限に活かして、ギャラリー空間の中に新たな空間を出現させた。原田の作品には、絵画のもつ独特の質感やオリジナル一点の魅力があると同時に、この新作インスタレーションには観客に作品を観るための立ち位置を探らせるようなインタラクティヴ性があることに、私は驚いた。さらに、一点透視法の視座は、写真撮影とも相性がよい。その場で体験してこそ得られる空間認識と拡散されるカメラ越しのイメージを通して、この作品の視覚装置としての魅力に気づかされたのである【図2】。
【図2】原田郁 個展「NEW DIMENTIONS」、アートフロントギャラリー
一方、《養老天命反転地》において、荒川+ギンズの世界観は、身体感覚だけでなく養老天命反転地の「使用法」や、パビリオンや道の名称から生まれる想像力に託されている。そのため、今回は、1) 反転のモチーフとして「模型」、2) パビリオンの名称を表示する「標識」、3) 変化し続ける庭をイメージした植栽計画「植栽」を見せることとした。これらの要素は、作品のコンセプトを伝える上で象徴的な要素であると同時に、3Dモデリング、テキスト、アニメーションという異なる表現効果を生み出す上で適切な題材である。
【図3】図面を元にした《養老天命反転地》の3Dモデリング
1)「模型」:反転のモチーフ
写真や竣工図面を元に3Dモデリングを行い【図3】、《養老天命反転地》の上下反転鏡像を実物の上に表示した【図4】。荒川+ギンズの反転のアイデアが最初に現れるのは、フランスのエピナール市の橋の未完のプロジェクトにおける模型《問われているプロセス/反転できる宿命の橋(The process in Question/Bridge of Reversible Destiny)》(1973-89年)である。このプロジェクトは、上下左右反転可能な空間や切り閉じる空間、知覚を投影させる空間などから成る。彼らのコンセプトを過去作品から解釈し、現実には実現しえない上下反転鏡像を模型として表示した。鑑賞者は、ドラッグすることで模型を上下させて表示することができる。
【図4】現実には実現しえない上下反転鏡像を《養老天命反転地》の実物の上に表示した
2)「標識」:パビリオンの名称
《養老天命反転地》には10のゾーンに143本の道と9つのパビリオンがあり、それぞれ名称がつけられている。今回はパビリオンの名称を表示した【図5】。パビリオンには、Cleaving Hall、Destiny House/Landing Site Depotのように彼らの他の作品にも登場する世界観が織り込まれている。言葉を手がかりに、鑑賞者が知覚体験とは別の世界像を想像できるようにした。
【図5】パビリオンの名称の表示
【図6】《天命反転地》のためのC.G. 1992
© 2019 Estate of Madeline Gins. Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins.
【図7】鑑賞ツールを通して見た、現実世界に投影された植物の配置風景
勾配に応じて樹木は異なる高さに配置されるように計画され、眺める位置関係の変化により、人間と植物の関係性が変わることが期待されている。現在の植生は計画と異なるものの、鑑賞者がドラッグすることによって植栽を上下させて表示し、人間と植物の関係をさまざまに変化させることができるようにした【図7】。
【図8】養老公園全体計画 © 2019
Estate of Madeline Gins. Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins.
《養老天命反転地》が竣工して20年以上経った現在、現実と情報は等しく扱われ、それは自然な感覚となりつつある。つまり、この20年でもっとも変化したのは我々を取り囲むメディア環境とも言える。「養老アート・ピクニック」では、鑑賞者が現地で合成した風景を撮影しTwitterに投稿できるようにした(@reality_arts)。また、《養老天命反転地》(1996)に先駆けて、荒川とギンズは「養老公園全体計画」を構想していたことがわかっている。当初計画されたパビリオンは16あり、現在実現しているのはそのうち3つだけであるが【図8】、そこには詩的な名称をもつ複数のパビリオンを回遊させることにより、人々の日常の意識を変化させようという壮大な構想が窺える。将来的にはARにより、実現していないパビリオンの提示をめざしている。
参考:プロジェクト紹介ムービー
養老天命反転地 © 1997 Estate of Madeline Gins. Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins.
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養老天命反転 AR
Yoro Reversible Destiny AR
養老アート・ピクニック(2018)のプログラムのひとつとして制作したスマートフォン用のAR(拡張現実感)アプリで、養老天命反転地の楕円形のフィールドに携帯端末をかざすと、荒川修作とマドリン・ギン ズが制作当初構想したイメージや言葉を重ねて見ることができる鑑賞ツール。荒川とギンズは、来場者がバランスを失うことを恐れるより、むしろ感覚を作り直すつもりで楽しむことを期待し、いくつもの仕掛けを用意しました。
養老天命反転地が完成して20年以上が経過した現在、現実と情報は等しく扱われ、それは自然な感覚として根付きつつあります。AR(拡張現実感)技術により、現実と情報の間を行き来しながら、養老天命反転地の新たな使用法を発見します。
制作:赤松正行、小林友樹、伊村靖子、松井茂、原田郁
協力:荒川修作+マドリン・ギンズ東京事務所、養老公園事務所、岐阜県、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)
https://artfrontgallery.com/project/Other_Projects/ar.html
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