inner space
もう一つの世界
私の制作は、3DCGによって構築した仮想世界「inner space」を起点としている。私はこの仮想空間の中に視点を置き、そこを歩むように観察しながら、視点から立ち上がる空間の断面を絵画として描き出す。ここでは視点は自由に移動し、その軌跡によって風景や空間の関係は絶えず変化していく。私にとっての一つの作品は、完結した風景ではない。それは広大な仮想世界の一つの断面であり、描画が積み重なることで、世界そのものが拡張を続けていく。私の制作は、個別の作品を完成させる行為というよりも、時間とともに更新され続ける一つの世界を形成するプロセスに近い。
この仮想世界は、もともと私自身の「心の拠り所」として生まれた。都市生活の中で自らの方向性を探り続けることは、時に激しい消耗を伴う。そこで私は、まず自分が安心して描き続けられる場所として「inner space」を構築した。現実とは異なる時間と空間の感覚が流れるその場所で、私は自由な視点を取り戻し、世界を静かに観察することができる。
制作を続ける中で、この場所は私個人の内的空間を超え、次第に他者と共有し得る空間へと変容していった。例えばワークショップにおいて、参加者が描いた「窓の向こうの景色」を空間に取り込んだ際、一人ひとりの異なる視点が一つの地平に現れた。同じ空間に並ぶ複数の窓を通して、人は自分自身の視点だけでなく、他者の世界を垣間見ることになる。
私の作品に現れる窓は、外の世界を見る窓であると同時に、自らの内側を見つめる窓でもある。視点はその窓を介し、自分の世界から他者の世界へ、そしてまた自分へと行き来する。この往復の中で、人は自らの固定観念からわずかに距離を置き、別の視点の存在に気づくことができるのではないか。
強いメッセージが溢れ、他者を想像する余地が狭まりつつある現代において、私は断定的な言葉を提示するのではなく、想像力が静かに働く場所をつくりたいと考えている。私の作品は、何らかの正解を教示するためのものではない。それは、異なる視点が同じ空間の中で共存し得る可能性を感じるための、一つの装置である。
「inner space」は、想像の内側に広がりながら、観察によって外側の空間として立ち上がる「もう一つの世界」である。私はその世界を歩きながら、そこに現れる風景をすくい上げ、描き続けている。この空間が、訪れる人にとっても自分自身や他者の世界を見つめ直す、ささやかな窓となることを願っている。
2026.03.10


"inner space” update 2026.01 @Iku Harada
重層化する窓の構造
私の制作における「窓」は、これら美術史上の変遷を断絶させるのではなく、一つの構造体として重層化する試みである。
絵画としての窓:
伝統的な視覚体験を継承するフレーム
仮想世界の窓:
デジタル空間 inner space へのアクセス
空間の窓:
展示空間の中に新たな境界を生み出す構造
ルネサンスの空間シミュレーション、モダニズムの平面性、そしてデジタルのインターフェース。これらを断絶した歴史としてではなく、同時に重なり合う構造として扱うことで、現実・仮想・視覚の境界を往還する新たな知覚の領域を提示することを目指している。さらに私の制作では、窓は単独の装置として存在するのではなく、複数の窓が相互に関係しあうネットワーク構造として現れる。
それぞれの窓は異なる視点や空間へと接続され、それらが連結することで世界は単一の視点ではなく、多層的な視覚の関係として立ち現れる。
このようにして「窓」は、世界を単に覗き見るための装置ではなく、仮想と現実、内面と外部、平面と空間を往還する知覚のネットワークとして再定義される。








